発酵

食品
とは?

01

知る
わかる

発酵食品とは

発酵食品といえば、何が思い浮かびますか?味噌や醤油、納豆、ヨーグルト…、私たちの身の周りには発酵食品があふれています。発酵食品と聞くと“体にいい”というイメージがありますが、それは一体なぜでしょう。発酵のメリットや仕組みを改めてひも解いてみましょう。

あれもこれも発酵食品

日本が誇る“麹”由来の発酵食品のように、世界には“酵母”“カビ””細菌”の働きによって愛されている発酵食品がたくさんあります。表は、発酵食品とその発酵食品を作る主な微生物の一例ですが、この例にとどまらず、「えっ、これも発酵食品?」と思うようなものもあるかもしれません。

ここでは代表的な微生物を挙げましたが、発酵する過程で微生物がほかの微生物を呼び込んだり、発酵が進んで物質が変化していく場合も多く、同じ原料に見えるものも、過程や発酵の程度により違う発酵食品となって、食卓に並んでいるのです。

食品を発酵させると
メリットだらけ

わざわざ手間をかけて食品を発酵させるのには、もちろん理由があります。メリットを大きく3つ挙げると、まず何より素材のうま味が引き出され、“よりおいしくなる”ということ。ふたつめは、発酵させることにより食品のもつ栄養価がアップし、発酵菌そのものも体に良い影響を与えるということ。例えば、“腸活”で話題の乳酸菌は、腸内環境を整える働きをすることで有名です。そして3つめは、食品の保存性を高めるということ。

そのままではすぐに傷んでしまう食材も、発酵させることでおいしく食べられる期間を延ばすことができます。まだ冷蔵庫がない時代から、食品を蓄えながらおいしく食べる知恵として、発酵食品は世界中でつくられていたのです。

発酵とはどういう現象?

そんなメリットだらけの発酵食品ですが、そもそも“発酵”とはどんな現象のことをいうのか、もう少し深く探ってみましょう。

発酵とは、食品に微生物が増えることで起きる現象のことをいいます。微生物自体が増えると同時に、微生物のもつ酵素が食品の物質を変化させ、それがうま味の増加や栄養価のアップにつながっています。微生物と聞くとちょっとドキッとしますが、細菌や酵母、カビが発酵をうながす微生物の代表です。味噌や醤油、甘酒をつくる“麹菌”や チーズをつくる微生物はカビの一種で、ヨーグルトをつくる“乳酸菌”や納豆の納豆菌は細菌です。また、お酒やパン作りに使われるのが酵母です。おなじみの発酵食品のおいしさは、微生物が一生懸命働いて生みだしていると思うと、なんだか愛着がわいてきませんか?

“発酵”と“腐敗”の違いは?

食品に微生物が増えるというと、もうひとつおなじみの現象に“腐敗”があります。“発酵”と“腐敗”は、基本的にはおこっている変化は同じですが、人間にとって有益なものを“発酵”、有害なものを“腐敗”と呼ぶ傾向があります。“有害”とは有害な物質が生成されていたり、“まずい”という状態を指します。明確な線引きがあるわけではないので、その境界線はあいまいです。

“酵素”と“酵母”の違いは?

前章で、有用な微生物の酵素が食品の物質に作用することが“発酵”という現象だとお話しましたが、さらに細かく解説してきましょう。“発酵”と一緒によく出てくるキーワードに“酵素”“酵母”がありますが、違いがわかりにくいですよね。

ここまで“微生物”と称していたものは大きく“酵母”“カビ”“細菌”の3つに分類されます。“酵母”は生物であり、糖をエタノールと二酸化炭素に分解し、アルコールに変える役割をもちます。 例えばビール酵母の働きにより、ビールのアルコールや味、香りを生み出します。一方、“微生物”が活動することで生み出される物質を“酵素”といいます。酵素は生物ではありません。

日本の発酵食品に欠かせない “麹”を例に、詳しく解説していきましょう。“麹”は米や麦、大豆などに“カビ”の一種である“麹菌(コウジカビ)”を付着させ、培養・繁殖させたものです。“麹菌”は、分解力の強い酵素をたくさん生成するのが特徴で、タンパク質をアミノ酸に分解する酵素や、でんぷんを糖に分解する酵素など、種類豊富に生み出します。

すると、それらの酵素がつくる糖やアミノ酸をエサに、“酵母”などほかの微生物が引き寄せられ、働き始めます。自身も増殖しながら、新しい酵素などの物質を生み出していくため、発酵はさらに複雑に広がっていきます。麹菌から始まった分解、合成、繁殖の連鎖が食品の味わいにふくよかな奥行きを与え、さらに生成した物質も微生物自体も、体に良い影響を与えます。“麹”が私たちの生活に欠かせないものになっているのも頷けます。

実は、米を原料とした“麹菌”は日本特有のもの。他国で“麹菌”がほぼ存在しない理由は、 “麹菌”は自然界の中ではあまり強くない菌であるからと考えられています。

中国やほかのアジアの国の発酵食品づくりは、穀物を練って室(むろ)に入れ、室に住み着く菌を増やす方法です。同時にほかの菌も繁殖するため、強くない“麹菌”は負けてしまい、繁殖ができないのです。

そのため、日本での“麹菌”は、米を蒸して殺菌し、清潔な部屋のなかでほかの菌が入らないようにして培養されます。すると“麹菌”はほかの菌に邪魔されることなく繁殖できるという仕組みです。現代でも、手作り味噌や塩麹などを手づくりする人が、“麹”を買ってきてつくるのは、“麹菌”の繁殖はとてもデリケートで難しいからなのです。

大変な手間をかけてつくられた “麹”から生まれた発酵食品が、味噌や醤油、甘酒、塩麹です。味噌や醤油は、料理に塩分を足すと同時に、うま味やコクを加えてくれるため、和食には欠かせない調味料です。洋食にもアレンジして使う人がいたり、お酒を飲んだ後はみそ汁が飲みたくなる人がいるのは、 “麹菌”の生み出す複雑な味わいに惹きつけられているからかもしれませんね。

“麹菌”は2006年に日本を代表する「国菌」に認定されました。“麹菌”は日本の食文化に大きな影響を与えてきたといえます。

発酵食品は古の先達から
受け継いだ暮らしの知恵

保存していた食品に微生物が増殖したことで、人間と“発酵”は出会いました。最初は偶然だったのでしょう。また、微生物が増殖しすぎて“腐敗”となったり、クセが強すぎて食べられないようなこともあったはずです。しかしその有用性を生かし、もっとおいしく食べられるよう試行錯誤を繰り返した結果、さまざまな発酵食品が生まれ、たくさんの発酵食品に囲まれた現代の食卓に繋がっています。そのお陰で、今では発酵させることによってはじめて口にできるものができたり、料理の風味をアップするさまざまな調味料がうまれたりと、先達の創意工夫の恩恵が今の私たちの暮らしを支えています。

戦後、食生活の洋風化がすすみ、“美食大国”といわれる日本では、ありとあらゆる国の料理をいただくことができます。一方で、私たちの先祖が綿々と慈しみ育ててきた発酵食品を多く使う「和食」は、海外では動物性油脂を多用しない健康食として熱視線を浴び、世界中で日本食レストランは増加。発酵によってうま味がしっかり感じられるとともに、ヘルシーなイメージが、その人気に一役買っているのでしょう。

私たちも改めて日本の伝統食である和食や発酵食品を積極的にとりいれ、先人の叡智の集結といえる “発酵”のパワーで健康的な生活を送りましょう。

監修者
清水加奈子
管理栄養士。国際中医薬膳師・国際中医師・調理師
多数のメディアでダイエットレシピの提案や栄養専門調理実習講師、栄養関連の監修を行う。著書『太らない食べ方 新装版』『どっちが太らない』/毎日燃えメシ (エイ出版)他。